作品が売れる「物語」って何?本当の意味とつけ方

「作品を売りたいなら物語をつけろ」

アートの世界やハンドメイド界隈、クラフトフェアやSNS運用の場面でも、
しばしば聞くアドバイスです。

私が描いているのは抽象線画で、絵本や紙芝居のような物語の「ワンシーン」ではありません。
「自分が描き続ける生き様」が物語になると思って活動を続けていきました。

でも、改めて「物語をつける」って一体どういうことなのか考えてみようと思います。

「ファンタジー小説みたいな話を作れってこと?」
「なんとなく重要そうなのはわかるけど、ふわっとしてて正直よくわからない。」

この記事では、「物語をつける」とは具体的にどういうことなのか、
それがなぜ作品販売に影響するのか、
そしてどんなふうに自分の作品に「物語」を与えていけるのかを、深掘りしていきます。

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「物語」とは、作り話ではない

まず大前提。「物語=作り話」と誤解している人がかなり多い。

たしかに「物語」と聞くと、小説やアニメ、映画のストーリーを思い浮かべるかもしれません。
でも、ここで言う「物語」とは、
あなたが何を思い、なぜそれを作ったのか、その背景や過程を言語化したもののことです。
つまり、「リアルなストーリー」。

たとえばこんな感じ:

  • 「祖母の家で見た障子越しの光が印象的で、それをイメージして描いた作品です」
  • 「震災後に心がざわついて、何か形にしなきゃと思ってこの線を何千回も重ねました」
  • 「失恋して何も描けなかった日々を抜けて、最初に描いたこの一枚が、私の再出発です」

これが「物語」。脚色や嘘はいらないし、
盛る必要もない。むしろ、正直で、あなたにしか語れない背景こそが、
人の心に刺さる「物語」になります。

なぜ作品に物語をつけると売れるのか?

そもそも、「なんで物語があると売れるのか?」という話。答えはシンプル:

人は「もの」ではなく「意味」にお金を払うから

アートやクラフト、デザインプロダクトは、
工業製品とは違って「感情」が価値になります。
たとえ同じような線を引いていても、

  • 「何となく描きました」よりも、
  • 「大切な人を亡くした喪失感を表しています」

と説明された方が、見た人の中に解釈する余地と感情の引き金が生まれる。
そして、その感情が共鳴すれば、「欲しい」に変わる。

つまり「物語」は、作品と買い手の間に橋を架けるようなものです。

どんな「物語」でもいいわけじゃない

とはいえ、なんでもかんでも語ればいいってわけじゃない。
効果的な「物語」にはいくつかの共通点があります。

① あなたにしか語れない背景があること

量産されたマーケティング用のテンプレートでは心が動きません。
「母が亡くなって初めて筆を取った」
「引っ越し先の風景に感動した」
など、あなた個人の体験がリアルであるほど力があります。

② 感情の動きがあること

人は感情に共鳴します。
喜び、悲しみ、葛藤、再生など、
何かしらの感情の動きがあると、
読み手の記憶に残りやすい。

③ 読み手が想像できる余白があること

全部を説明しすぎると、
読み手の「参加する余地」がなくなります。
物語は導線であって、結論を押しつけるものではない。

物語をどうやって見つけるか?見つけ方のコツ

ここで、「でも自分の作品にそんな物語なんてないよ」と思う人へ。
安心してください、誰にでもあります。気づいてないだけです。

以下に「物語の種」を見つける質問リストを用意しました:

  • なぜこの素材を選んだの?
  • その色はどうやって決めた?
  • 描いてるとき、どんな気持ちだった?
  • 最初の構想と完成形、何が変わった?
  • 誰かの言葉に影響された?
  • これを作ったとき、人生で何が起きてた?

この問いに真面目に答えていくと、自分でも意識していなかった「物語の芯」が見えてきます。

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「物語」で売れている作家の共通点

実際に、物語の力でファンを増やしている作家には以下のような特徴があります。

  • SNSで制作の途中経過や思いをこまめに発信している
  • キャプションに背景や動機を書いている
  • 展覧会でお客さんに自分の言葉で説明している
  • 「どうやって描いてるの?」と聞かれたら、手法だけでなく「なぜこう描くのか」も語る

つまり、「伝える努力をしている人」が強い。作品が語ってくれる、は理想論です。実際には「あなたが語る」ことで、作品が立ち上がるんです。

「物語」によって、あなた自身が変わる

最後に一つ伝えたいのは、物語は「売るための道具」ではなく、自分自身を見つめ直すためのツールでもあるということ。

「なぜ自分はこれを描いているのか?」
「何を感じているのか?」
「これを通して何を伝えたいのか?」

この問いに正面から向き合うことで、ただの「作品づくり」が、自分の人生や感情とリンクし始めます。売れるか売れないか以上に、作品に芯が通る。その芯の強さが、結局は人を惹きつけ、売れるきっかけにもなる。

フィクションとして物語を作るのはアリ?ナシ?

ここまで「物語=リアルな背景」として説明してきましたが、フィクション(創作)として物語を構築する作家も実際にいます。絵本作家やコンセプチュアルな現代アーティストなどがその代表です。

では、「作り話としての物語」は作品に効果があるのか?

結論:フィクションでも、芯があればアリ

フィクションであっても、**その物語に作家の思考や哲学、問題意識が込められているなら、全く問題ありません。**むしろ、構築された世界観に惹かれてファンになる人も多いです。

たとえば:

  • 空想上の町を舞台にしたシリーズ作品
  • 架空の生物の生態を描いた絵画
  • 人形やオブジェにストーリーを与えている作風

これらは一見フィクションでも、「なぜその世界を描いたのか?」という動機がしっかりしていれば、それ自体が作家の物語になります。

NGなのは「ただの演出としての嘘」

一方で、「ウケそうだからそれっぽい話を盛る」だけのフィクションは見透かされます。人はリアリティのない言葉に感動しません。表層だけ借りてきた物語は、結局その場しのぎのパッケージに過ぎないのです。

まとめ:物語とは、自分の「なぜ」を伝えること

「作品に物語をつけろ」と言われると、何か特別な演出が必要な気がしてしまいます。でも実際には、あなたが何を考え、なぜその作品を生み出したのか――その“背景”を自分の言葉で伝えることが物語です。

それがリアルな体験でも、創作されたフィクションの世界でも構いません。重要なのは、そこにあなた自身の「芯」や「問い」が通っているかどうか。表層的な演出ではなく、心から湧き出た物語は、自然と人を惹きつけ、作品の価値を高めてくれます。

物語は、作品を売るための小手先のテクニックではありません。あなたという作家がなぜ今ここで、これを描いているのか。その存在理由を掘り起こす作業です。そして、それを言葉にする勇気を持ったとき、作品に命が宿り、観る人の心に届くようになります。

作品の中に、もうすでに「物語」はある。
あとはそれを、あなただけの言葉で語るだけです。