素材
2018年から制作しているガラスペンの線画は
主にKMKケント紙、万年筆用顔料インク、ガラスペンを使用する(私がペン画を描くために選んだ画材)


ガラスペンとは、ガラスで作られたペン先をインクに浸して書く「つけペン」の一種である。
インクボトルにペン先を軽く浸すだけで、毛細管現象によってペン先の溝にインクが吸い上がり、一度インクをつけるとはがき一枚程度の文字を書くことができる。
1902年(明治35年)に日本の風鈴職人によって発明された、日本発祥の文房具である。
制作動機

代替えが利かないガラスペンにしか描けないものを
2018年以前はおもにボールペンや万年筆で単色の線画を描いてきた。
最初は持て余したガラスペンとインクをどう使うかから制作が始まった。
ペンで描かれる線画はほとんどが単色であり、
ペン画表現を拡張する試みとしてガラスペンにしか描けないものを模索した。
ガラスペンの特徴として
・付けペンより長く筆記できる
・ほかのペンとは違い容易に色が変えられる
・筆では描きにくい角を容易に描ける
・一定の線で水彩のような色の変化・濃淡がつけられる
結果、作者の意思とは別に偶然に近い画面を表現できるとして
ガラスペン線画シリーズを制作する。
テーマ
無心で、目的や意味もなく、ただ石を積み続けるように線を引き続けます。
人は、目の前にあるものに意味を見出そうとし、行為の先に何らかのゴールを設定しようとします。それは、未知のものを理解し、世界を自分にとって分かりやすいものにしようとする、人間の認知の働きでもあります。
しかし、あらゆる行為に目的や成果を求めることが、必ずしも人間の生を豊かにするとは限りません。社会の中では、何のために行うのか、何を生み出すのか、どのような価値があるのかを問われる場面が多くあります。
本作は、そうした意味や目的を求める力に対して、何か別の意味を提示するのではなく、ただ「石を積み上げる行為」を続けることによって抗おうとするものです。
ガラスペンで描く本作では、ペンに含まれるインクと水分がもたらす筆記の不安定さを利用し、作者の意図からわずかに逸脱する線を積み重ねることで、「ほぼ偶然」といえる画面を追求しています。
制作では、直線を迷路のように1本分の間隔を空けながら引いていきます。画面が埋まると、今度はその空いた部分に線を引き、線と線に挟まれた余白を埋めていきます。
この方法は、画面の一か所から仕上げようとすると作者の意図が集中しやすいため、描く場所を分散させるためのものでもあります。意図を完全になくすことはできませんが、膨大な反復によってその関与を薄め、身体の動きや画材の特性、環境の変化が画面に介入する余地を残します。
「いったい何を描いているのか」という問いに対して、何かを画面に表すためではなく、意味や目的を除いた描くという行為そのものの痕跡を示しています。その反復の中で、作者の意図を超えたものが現れることを追求します。
日常の中でつい意味や目的を考えてしまう、そんな時に別の価値観や視点で見ることのきっかけとなれることを願います。
