目次
はじめに:才能に悩むすべての人へ
「自分には才能がないのかもしれない」――創作を続けていると、
そんな思いがふと頭をよぎります。
特にプロを目指す画家にとって、それは重く、深く、立ち止まってしまうほどの問いです。
この記事では、私自身の経験をもとに、「才能がない」と感じながらも画家として活動していくまでの過程を綴っています。
特別な教育も賞歴もなかった私が、
どのようにして“描くこと”に向き合い、生き方として選んだのか――。
これは、誰かと比較することに疲れた方や、
自分を信じきれないでいる方にこそ届けたい物語です。
美術教育も実績もなかった私

現在、福島に住みながら都内を中心に画家として活動していますが、
私には特別な美術教育の経歴はありません。
美大も出ていませんし、学生時代に何か賞を取った経験もありません。
高校で美術部に入っていたわけでもなく、
趣味としてさえ、特別に熱中していたわけではありませんでした。
絵は好きだったけれど、「プロになろう」と考えたことなど一度もありません。
それでも、描くこと自体は、どこか自然で、落ち着ける行為だったように思います。
社会に出てからの焦燥と無気力
大学卒業後の私は、明確な夢も目標もなく、
生活のためにアルバイトをこなす日々を送っていました。
やりたい仕事もなく、ただ日常をこなすだけの毎日。
焦りと無気力だけが積み重なっていく時間。
学生時代に何度も聞かされた「絵では食べていけない」という言葉が、
いつの間にか自分の中に根を張っていました。
その言葉の影響もあって、私は絵の道をあきらめ、絵を描くことから離れていました。
現実に折り合いをつけるために、自分の“好き”を棚に上げて生きることを選んでいたのです。
人生を変えた親友の死

そんな私の生活を一変させたのは、10年以上の付き合いがあった親友の突然の死でした。
事故による、あまりにも突然すぎる別れ。
その出来事がきっかけで、「人はいつ死ぬかわからない」という当たり前すぎる現実を、
本当の意味で突きつけられました。
“このまま、やりたくない仕事をただ続けて、やりたいこともやらずに死んだら、絶対後悔する”
その言葉が、ずっと胸の中で渦巻いていました。
SNSに投稿した一枚の絵

その頃、何気なく描いた絵をSNSに投稿しました。
すると、思いがけず多くの人が反応してくれました。
「もっと見たい」「次の展示は?」――そんな言葉をいただきました。
たったそれだけのことが、こんなにも嬉しいのかと驚きました。
そして、「やっぱり自分は絵を描くのが好きだったんだ」と再認識しました。
ちょうどその時、アルバイト先の上司が何気なくこう言いました。
「好きなことに思い切って取り組めば、とんとん拍子に進む」
この言葉が、背中を押してくれました。
私はアルバイトを辞め、人生をかけて画家として生きていくことを決意しました。
絵を描くことは、無意味に石を積み続けること

私にとって、絵を描くとは“無意味に石を積み続ける”ような行為です。
意味があるかどうかは後からわかること。
今やっていることが、どれほど評価されなくても、
どれほど報われなくても、黙々と石を積み続ける。
それを続けられるかどうかが、何より大切なのです。
「いいね」の数や閲覧数に左右されず、誰かの役に立てなくても
ただひたすらに積み続ける。
それが苦ではなく、むしろ“やらずにはいられない”と思えたとき、
ようやく私は「描くことが自分の生き方なのだ」と理解できました。
才能がないと思ったときに考えてほしいこと
1. 才能とは比較でなく、継続の意志である
「才能があるかないか」は、他人と比較することで生まれる疑念です。
しかし本当に大事なのは“描きたいかどうか”“続けたいかどうか”です。
どれだけ描き続けても評価されないかもしれません。
それでも、誰のためでもなく、自分自身のために描き続ける。
その行為自体がすでに才能の証明です。
2. 「上手さ」より「表現」
技術があることと、表現力があることは違います。
絵のうまさは、ある意味で時間と努力で身につけられるものです。
でも、自分の目で見た世界を、
自分の言葉や色で表現すること。それはその人にしかできません。
たとえ拙くても、そこに“あなたらしさ”があれば、人の心を動かします。
3. 続ける覚悟こそ才能
続けることが何より難しいのです。何年も描き続け、
何度も落ち込み、それでも筆を置かなかった人間が残っていきます。
だからこそ、続けている時点で、もうあなただけの力があるのです。
4. 評価は時差で届く
多くの人が
「描いたのに誰にも反応されなかった」
「見てもらえなかった」と感じて筆を折ります。
ですが、作品というものは、公開した瞬間に評価されるとは限りません。
誰かの心に刺さるのは1年後かもしれないし、
10年後かもしれません。あなたの作品に対する評価は、
あなたが思う以上に「時差」をもって届きます。
すぐに反応がなくても、描き続け、見せ続けることで、
少しずつ誰かの中に残るものがある――それを信じる力も、描き手には必要です。
5. 「やめられないなら、それが答え」
「才能がないからやめたほうがいい」と何度も思っても、
どうしても筆を取ってしまう自分がいる。
それこそが、答えです。
本当に向いていなければ、自然と離れていきます。
やめても苦しくない人は、そもそも悩みません。
それでも描いてしまう、やめてもまた戻ってしまう――
そんな自分がいるなら、才能があるかどうかを悩むより、
もうそれが「描くべき人間」である証拠なのです。
才能に悩んだときにやってみてほしいこと

1. 過去の絵を見返す
過去の作品を見返すことで、成長を実感できることがあります。
当時は気づけなかった“自分らしさ”に気づくこともあります。
2. 人に見せる
閉じたままの作品は、誰の心にも届きません。
SNSでも、展示でもいいので、誰かの目に触れさせてみてください。
そこから、自分では見えなかった価値が浮かび上がります。
3. なぜ描くのかを言語化する
「なんのために描いているのか?」――
それを自分の言葉で説明できるようになると、
迷いが減ります。
紙に書いてみるのが一番おすすめです。
描く理由が自分の中で定まれば、ブレにくくなります。
4. まったく別ジャンルの作品に触れる
自分の描くジャンルやスタイルだけに閉じこもっていると、視野が狭くなり、自分の絵の価値が見えづらくなります。
たとえば絵画を描いているなら、音楽・詩・舞台・建築・ダンスなど、まったく違う分野の創作表現に触れてみてください。
異なるジャンルに触れることで、「表現とは何か」「自分にしかできないことは何か」が逆に明確になることがあります。感性がほぐれ、新しいモチーフや視点を得るチャンスにもなります。
5. 一度、作品を“売る”体験をしてみる
「上手い」「下手」ではなく、「欲しい」「手元に置きたい」という評価軸に触れることは、創作者として大きな転換点になります。
フリマアプリや展示販売、ミニマーケットなど小さな一歩でもいいので、自分の作品に値段をつけてみる。買い手のリアクションや対話を通じて、自分の作品が誰かの心にどう届いているのかを知ることができます。
「自分に価値がない」と思っていた作品が、誰かにとって宝物になる。そんな瞬間は、何よりの自己肯定感につながります。
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「才能がない」からこそ、描き続ける意味がある
「自分には才能がないのかもしれない」と思う瞬間は、きっと誰にでもあります。
ですが、それはあなたが本気で絵と向き合っている証でもあります。
才能とは、生まれ持った差ではなく、「続けよう」とする意志のことだと、私は思います。
描き続けている限り、あなたはすでに“才能がない側”ではありません。
描きたいという気持ちと、続ける覚悟があるなら、あなたはもう立派な画家です。
絵が上手いかどうかよりも、大切なのは「描くことをやめないこと」です。
それが、プロとして生きていく上で、何よりも重要な資質だと思います。
もし迷ったら、とにかく描いてみてください。
たとえ苦しくても、ひと筆だけでもかまいません。
今日描いたその一枚が、明日のあなたを支えてくれるかもしれません。
そしていつか、あなたの絵が、誰かの人生をそっと変える日がきっと訪れます。
その日まで、焦らずに、静かに、描き続けていきましょう。