創作における「他人の作品を見ない」ってアリ?

はじめに

「たくさんの作品を見て学ぶことが大事だよ」——
美術や音楽をやっていると、よくこう言われますよね。
でも中には、あえて他人の作品を見ないようにしている人もいます。

それって変?それとも戦略?

実は筆者もペン画家として活動しています。
都内のギャラリーをめぐってたくさんの作品を目にしてきましたが
他作家の作品にはあまり興味がわかないタイプです。(ほかの方はどうなのでしょうか?)

美術館にもほとんど行きません。
インプットは大事なのは十分承知の上、
正直「自分の作品には及ばないな」と思ってしまうことがほとんどです。
とんだ世間知らずの高慢画家かもしれません(笑)

そもそも地方に住んでると
展覧会や他作家の作品を見たくても実物を見る機会のない環境も多々あります。
そんな環境を無視して「たくさんの実物の作品を見るべきだ」と言えるでしょうか。

この記事では、心理学や実際の研究をもとに、「他人の作品を見ない」選択がどんな意味を持つのかを、わかりやすく解説していきます。

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1. 作品から受ける影響のタイプ

芸術家は作品に触れたときの反応がちょっとずつ違います。
その中でも2つのタイプがあります。

① 吸収してすぐ使えるタイプ

誰かの作品を見たとき、「これ面白い!」「こうやって真似してみよう」とすぐ自分のものにできる人です。
たとえば音楽で、新しいリズムを聴いてすぐ自分の曲に応用できる人。

② 時間をかけて消化するタイプ

逆に、他人の作品を見たあと、自分の中で整理するのに時間がかかる人もいます。
その間、「自分らしさ」がわからなくなって、作品がぶれてしまうこともあります。

心理学では、これは「認知の柔軟さ」の違いだと説明されます。
つまり、情報をすぐ整理できる人と、じっくり時間をかける人がいるということです。

2. あえて「無知」を選ぶことの意味

美術の授業や本では「たくさんの作品を見なさい」と言われます。確かに役立ちます。
でも、それがすべての人にとって正解とは限りません。

たとえば、10年間ほとんど他人の展示を見ずに、自分の線だけを描き続ける画家がいたとします。
これはサボりではなく、自分だけの「線」や「形」を探すための修行かもしれません。

外の刺激を断つことで、自分の内側の声をもっとはっきり聞けるようになるのです。

3. なぜ同じジャンルに興味が持てないのか?

「同じ分野の作品には興味がないけど、全然違う分野のものには惹かれる」
こういう経験、ありませんか?

実は心理学的に説明できます。

  • 比較してしまう:同じジャンルだと、自分と比べてしまって純粋に楽しめない
  • ライバル視してしまう:評価モードに入ってしまう
  • 距離がある方が楽しめる:違うジャンルなら「比べる」ことなく素直に楽しめる

だから「興味がない」のは冷たい態度ではなく、むしろ自分を守る自然な反応なんです。

4. 科学研究でも同じことが言われている

これは芸術だけの話ではありません。
科学者の世界でも「インプットしすぎると逆に発想が狭くなる」と言われています。

2019年の研究では「ある程度の情報遮断が、新しいアイデアを生みやすくする」と報告されました。
つまり、適度に距離を置くことはむしろ創造性を高めるのです。

5. 他人の作品に興味が持てない自分をどう受け止める?

私自身も、他の作家の作品を見ることはありますが、
正直なところ「これは好きだ!」と思えるものは、全体の1割にも満たないと感じています。

それは、「他の作品に興味がない」のではなく、
本能的に、自分の感覚と違うものに対して“遠く”感じているのかもしれません。

「人の作品に興味を持てないのは悪いことなのかな」と悩む人もいます。
でも、それは必ずしも問題ではありません。

  • 人によって感受性は違う
  • 数よりも「深く見る」ことが大事
  • 無関心は、自分の独自性を守る自然な行動でもある

むしろ、自分の特性を理解して、その上でどう向き合うかが大事です。

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6. 創作と鑑賞、どちらも楽しむ工夫

「作品を見ないと、創作を半分しか楽しめない」と言われることもあります。
そんなときは段階的に関心を広げるのがおすすめです。

ステップ

  1. まずは自分の創作に集中する
  2. 異分野の作品に触れて刺激を得る
  3. 徐々に同じジャンルの作品にも目を向ける
  4. 「批評モード」と「楽しむモード」を切り替える

これなら、安心してバランスを取りながら学べます。

7. 創作の段階ごとに最適な距離感がある

創作の進み具合によって、他人の作品との距離感は変わってきます。

  • 初期:あえて遮断して、自分のスタイルを固める
  • 発展期:必要なインプットを選んで取り入れる
  • 成熟期:他者との対話や交流を通してさらに深める

大事なのは「いつでも全部を見る」ことではなく、「今の自分に合った距離感」を選ぶことです。

まとめ:他人の作品を見ないことも戦略

「他人の作品を見たほうがいい」とあえて無責任に言いません。
「他人の作品を見ない」ことは、傲慢でも怠けでもなく、一つの戦略です。

  • 独自性を守る
  • 感受性を大切にする
  • 内面の声に耳を澄ます

そうした理由から、孤立を選ぶ人もいるのです。

創作には一つの正解はありません。
自分に合った方法を見つけることが、もっとも豊かな表現につながります。
「自分の声」が聴こえるまで、耳を澄ませ続ける。
その静かな創造こそが、実は最も深く、最も遠くまで届くのかもしれません。